先週、ミーティングがあって福岡に行った。爆睡から目を覚ますと、飛行機はすでに降下中。
ミーティングの開始は数時間後。それまでどうしよう? 寝ぼけまなこで玄界灘の島影を見下ろしていると、唐突に1つのアイデアが浮かんできた。「そうだ、志賀島(しかのしま)に行って、金印を見よう!」
出し抜けに記憶の海馬に浮上したのは、後漢の光武帝がくれた金印。「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」と彫られた、あの、昔歴史の試験によく出てきたお宝のことである。
慌てて空港から志賀島の経路を調べると、地下鉄とJRを乗り継いで片道1時間40分。う~ん、遠い。
だが、さらに検索すると、今では志賀島ではなく、福岡市博物館に移されていることが判明。行き当たりばったりの思いつきが、みるみる具体的になっていく。
博物館にたどり着くと、金印は常設展示室に、印字面を下にして、ポツンと陳列されていた。
昔は金印の造形なんか意識したこともなかったから、精緻で美しい金細工が施されていることを、数10年の時を超えて、初めて知る。
つまみの部分は、とぐろを巻いた蛇(へび)の形で、隆起した無数のウロコが全身を覆い、2つの大きな目がギロリとこちらを睨んでいる。
説明パネルによると、後漢は、北方民族には「ラクダのつまみ」を、南方の農耕民族には「蛇のつまみ」を与えたのだそう。へぇ~、ラクダ? 蛇? そして……現代はパンダかぁ~! ま、確かに可愛いからね。
2000年も前から、愛らしい動物は、外交上有効なアイテムだったってことね。
……などと考えて、ちょっと待った〜! ところで蛇は、もらって嬉しいほど、可愛い動物か?
そこで今度は、可愛い…可愛い…と念じながら、金細工の蛇と目を合わせてみる。
と、キョトンと愛嬌のある瞳のように思えてきたから、不思議である。
=2018年5月25日掲載=