新橋駅前を歩いていると、道の反対側に「羽根付きたい焼き」と書かれた真っ赤なのぼりがはためいていた。文字の上には四角いお皿に載せられた、たい焼きの写真がレイアウトされている。
と思ったら、それは四角いお皿じゃなくて、丸ごとたい焼きの羽根らしい。
うむむむ、あのフォルムこそがたい焼きの命。シャチホコみたいにのけぞっているお魚にパクッと食らいつくのが快感なのにね?
悪いけど、これじゃあ、口がアンコに行き着かないよ。およげ! たいやきくんだって、こんな羽根が付いていたなら泳げなかったでしょうに……。
とその時、ある記憶がデジャビュ(既視感)のようによみがえってきた。
10年ほど前のこと。出張先で昼を食べ損なったわたしたちは、空きっ腹を抱えて羽田に着いた。そこに食通のOさんから初めての「羽根付き餃子」のお誘い。わたしと同僚のSさんは、ふらふら彼に着いて行った。
下車したのは京急蒲田駅。目当ての店は仕事帰りのサラリーマンでおおにぎわい。厨房からは、ジュージューと油の弾ける音が聞こえてくる。注文をOさんに任せた私たちは、「楽しみだねえ」とヨダレをこらえた。
とうとう目当ての品が登場。ん、これが羽根?
皿に載っていたのは、パリッパリに焼けた飴色の包み。中には数個の餃子が透けて見えるが、どう見てもそれは四角いあつあつアップルパイだ。
その時気づいた。わたしはあのコロッとした丸みや、ハフハフと口に入れた時に舌で感じるヒダヒダなど、つまり太った耳のような餃子の形そのものが好きだったんだ。これじゃない……。
パリパリと箸で羽根を剥がそうと苦心するわたしを、Oさんたちが怪訝な顔で見つめていた。
そんなわけで「羽根無用論者」のわたしだが、もはや餃子戦線では多勢に無勢。百歩譲って「羽根付き餃子」はアリとしても「羽根付きたい焼き」はどうよ?
営業妨害する気はさらさらないが、なんだかちょっと、気がもめる……。
=2023年5月26日掲載=