前世紀の終わり頃(何て大げさな書き出し!)、仕事にはいつも、アディダスのジャージ・ワンピースと、高いヒールの靴で出かけた。
アムラーというほどではなかったが、安室ちゃんがカッコ良く着こなしているのを見て、真似したのだ。腕に3本ストライプの入った前開きのやつ。赤、黒、赤&黒、ピンク、紫、グリーンの6色を着回した。
驚いたのは、この格好に変えたら、周りの態度がコロッと変わったこと。仕事仲間はもちろん、駅でもお店でも、なぜか皆、対応が気安くなって、日常を居心地よく感じた。
そんなある日、仕事の打ち上げがあって、クライアントの宣伝部長に、由緒ある銀座のクラブに連れて行かれた。
楽しい宴が終わる頃、わたしは店のママから、あとで話があると耳打ちされた。
皆が帰ると「あなた、なぜそんな格好で来たの?」と、美人のママに睨まれた。「トレードマークなんですよ」と説明したが、彼女は「お世話になっている部長さんの前で、ジャージは失礼よ」の一点張り。
社会常識にあふれた銀座のママから叱られることが、妙に嬉しかった記憶がある。
「世間知らずなこの女に説教しなきゃ!」と思わせるだけの常識破りのブランド力が、多分、あの頃のアディダスにはあったのだ。
その後、アディダスは、外国人観光客の制服のようになって、いつの間にかわたしの熱も冷めてしまった。
10数年が流れて…。昨今、3本ストライプのブームが再燃している。先日、面白半分で、撮影スタジオに、昔のパーカーを引っかけて行ってみると、後輩の20代女子が「買ったんですか? いいなぁ~」と言って、ウハウハと近寄ってきた。
(20年前のアディダスだとも知らずに!)
ナイキでも、プーマでもなく、わたしはアディダス。
好きなブランドは時々、タイムマシンの役割をする。
=2019年12月27日掲載=