森ビルが、東京の虎ノ門・麻布台に高さ330mの高層ビルを建てるという。
完成予定の2023年には、300mのアベノハルカスを抜いて、日本一、背高ノッポのビルになるという。
と、楽しげに書き出したが、わたしがこのビルのエレベーターに乗る可能性は、ありやなしや?
実は、最近流行りの、ガラス張りで見晴らしのいい、シースルーのエレベーターが、大の苦手なのである。
仕事で乗らねばならぬ時は、前日から「一緒に乗ろうね」と、誰かに必ず念を押す。同乗者がいれば、足がすくまないからだ。
だが事件は突然起きた。
昔の仕事仲間から連絡があって、彼の会社に講演に来てよ、という。場所は? と聞くと、六本木一丁目。当日、受付に来てくれる? オッケー! と昔なじみの気安さで応えて、いざその日。
小さな会社だろうと想像していたのに、駅に着いて確認すると、その会社は、そびえ立つ40階超の高層ビルの32階にあった。
え〜っ、こんなスケスケのエレベーターに乗るの?心の準備のなかったわたしは、1階でゆきずりの同乗者を待つ。だがその人は無情にも7階で降りてしまって、わたしは一人旅。
広さは、マンションの一室ほど。壁は、四面ガラス張り。スピードはぐんぐん上がって、まるで空中浮遊のよう。わたしは無になり、床を踏みしめるハイヒールだけをじっと見ていた。
終点の24階でドアが開いて外に出ると、今度はフロアーの床がまさかのガラス張り。いきなり足がガタガタとミシンを踏む。その時、床に手をつき、四足歩行をしたい、という本気の衝動に襲われた。二足歩行は、もう限界!
幸い、エレベーターを乗り継いで32階の会議室に着いてからは、落ち着くことができた。
これからもこの星にはきっと、ニョキニョキと高層ビルが建ち、シースルーのエレベーターが生まれるのだろう。
すると、いつか人類は四足歩行に退行するのではないか? と、わたしは体験から予想するのだが、それはまた、ずっと先のお話……。
=2019年9月13日掲載=