「ゾウ、サメ、クジラ、イカ…。それぞれの動物の最も体が大きい種を、それぞれ1つずつ答えよ」と、クイズ番組が聞いてきた。
正解は「アフリカゾウ、ジンベイザメ、シロナガスクジラ、ダイオウイカ…」
へぇ、ダイオウイカってどのくらい大きいんだろう?と思いながら、見ていた。
その翌日、上野駅の構内を歩いていると、頭上に強い視線を感じた。ギョッとして立ち止まると、巨大な目玉が見下ろしている。
いきなり未知との遭遇である。噂のダイオウイカがどうしてこんなところに?
慌てて壁に掲示された説明書きを読むと、それはバルーン製のレプリカで、国立科学博物館の企画を盛り上げるための装飾だった。
原寸大?まさに、海の魔物。襲われたらひとたまりもないなと、ゾッとする。
そんな「目ぢから」に釣り上げられ、わたしも週末「深海展」に足を向けた。
ダイオウイカばかりではなく、暗黒・低温・高圧の深海には多くの魚が生息しているらしい。その名も、フウセンウナギ、ムカシウミヘビ、ロウソクモグラアンコウ、アカチョッキクジラウオ、ネッタイユメハダカ…。最後のやつなんて、熱帯で、夢で、裸である。
日常的に親しんでいる魚でないせいか、どれも、舌をかみそうな、マニアックな名前を付けられてしまっている。
沿海に住む魚の名前はもっとあっさりしているもの。
ハゼ、コウナゴ、ヒラメ、アイナメ、メバル、ナメタガレイ…。こんな感じ。
いつのまにか、深い海の底でうごめいている未開の生態系への驚きが、故郷の海に住む、人なつこい魚たちの受難への気がかりに取って代わる。
この海もあの海も、一つの同じ海である。
=2013年9月17日掲載=