学校を卒業してコピーライターになったばかりの頃は、原稿用紙に手書きでコピーを書いていた。
特に、広告の旗印になるキャッチフレーズを書くときは、文房具にまでえらく気を使った。
わたしはコクヨの青いサインペン派だったが、筆ペンを使う重鎮もいたし、なかには紙をクルクルほどいて芯を出すダーマトグラフを愛用する人、はたまたサインペンの先をカッターナイフで斜めに自分好みにカットして使用する人など、各自、個性を発揮していた。
だが、ワープロやPCが普及すると、そんなこだわりもジエンド。文房具受難のデジタル時代が始まった。
さて先週、Zoom会議の終わり際に、得意先のSさんが、画面いっぱいに突き出す感じでボールペンを見せびらかした。
「このペン、ペン先じゃなくて、重心が指先あたりにくるのよ。でもって、書き味が最高でさ」
おお、今時アナログ時代さながらの文房具自慢だ!
「ほんと?」つられたわたしは、思わず同じボールペンをポチッた。
その名は、ユニボールワンF。実際に使ってみると、なるほどペン先が軽い。今では100均の4色ペン派のわたしの意見なんて誰も期待してないだろうけど、文字の色もいい。軸からペン先まで同色でつながったデザインは、ちょっと未来的でさえある。ちなみにネット通販でのお値段は、450円也。まあ、そんなもんか。
数日後、気がついたことがあった。簡単なメモを取ろうとしてペンを滑らせた瞬間、かすかに気持ちが浮き立つのである。
そうか〜。これが書き味の違いってやつか。
時が流れても、指先にはアナログ時代の痕跡がしぶとく生き残っていたのだった。
=2022年8月12日掲載=