先週の京都出張は、ゲリラ豪雨に見舞われた。雨宿りをしたのは「京都国際マンガミュージアム」である。
ここは、明治2年に建てられて廃校になった小学校を利用した施設で、書棚には、30万点以上のマンガがギッシリ。2階のギャラーでは、思いがけなく「山岸凉子展 光(てらす)」という展示が行われていた。
入ってみると、山岸漫画の原画や当時の掲載誌が並んでいる。あ、これ持ってた! これ泣いたわ! と、突然、記憶の縁へ引き戻されるような、不思議な感覚に包まれた。
山岸凉子初期の傑作は、バレエ漫画の「アラベスク」。少年漫画で流行していたスポ根の世界を、旧ソ連のボリショイ・バレエ団を舞台にして本格的に描いた。
主人公のノンナはいいものを持っているのだが、いつもイジイジ、オドオド…。
そんな彼女の才能を見出したミロノフ先生が、厳しくも愛情豊かに、指導していくストーリー。
この漫画にハマったわたしと妹は、毎晩、当時住んでいた福島市腰浜町のアパートをそっと抜け出した。隣にある神社の境内に潜り込み、ほの暗い裸電球の下で、習ってもいないバレエのパ・ド・ドゥの練習をするためである。数カ月後、氏子一同から「夜中に踊るのは止めて下さい」という紙が貼り出される事になるその日まで、ずっと……。
時が過ぎ、就職活動から社会人に移っていく悩み多き時代に出会ったのが、「日出処の天子(ひいづるところのてんし)」である。
夢から現実への脱皮をする時期に読んだこの漫画は、耽美的だが、息が苦しくなるほど辛口の物語だった。
必ずしも、人生は思い通りになることばかりではないという<真実>を教えてくれた指南書でもあった。
少女マンガがある限り、わたしたちは、いくつになっても一生少女でいられる。京都の雨は、思い出の扉をはんなりと開けて、通り過ぎて行った。
=2017年8月25日掲載=