あなたが今までに一番多く、素手で殺戮(さつりく)した動物は何ですか?と聞かれたら、ほとんどの人が一瞬考えた後、「蚊!」と答えるのではないだろうか。
あんなにあっけなく殺せる動物は他にない。パン!と音高く仕留めた瞬間、狩猟本能が思わず、満足の吐息をもらす。だが、わたしたちは、さほどこの虫を憎んでいるわけでもない。
わたしは、周りの人が虫除けスプレー要らずになるほど、蚊に刺されやすい体質で、夏になると始終手脚を腫らしている。そんな人間でさえ、蚊に対してはヘビやゴキブリとは明らかに違う、ある種の親しみを感じている。ヒトの血を吸いすぎてお腹が重くて動けなくなっている姿など、むしろ滑稽で笑ってしまう。
昨年もアメリカで、腹部が血でふくらんだ、4千600万年前の蚊の化石が見つかって話題になった。長い間、この地球上で生息して来た事は確かなようだ。
もっとも、昭和30年代までは日本でも、蚊を媒介にして年間1000人を超える日本脳炎の患者が発生した。現在でも、アフリカでは、年間100万人以上の子どもがマラリアで生命を落としている。蚊を親しい動物だなんて言っていられるのは、平和ボケ昭和生まれの、戯言(たわごと)に違いない。
今回のデング熱は、地球温暖化の影響が大きいのだろうが、わたしたちの日頃の常識を超えた騒動だ。
想定外な事件が起きる度に、この世には、ありえないことなんか何もなくて、実は何もかもがありえるのだ。そろそろ昭和の惰眠から抜け出してテンションを上げなくては!と思う。
思うのだが、それをするためには膨大な勇気とエネルギーが必要で、どうしても、楽な方へと流れてしまう。
人間は強くない。
=2014年9月23日掲載=