先週、奈良で撮影の仕事があった。他のメンバーは当日帰京。だが、わたしには企みがあった。長い間憧れていた明日香村まで足を伸ばすなら、今でしょ!
と、心の声がそそのかしたのである。
1人奈良に居残って、翌朝、橿原神宮駅前のレンタサイクル店へ。変速機なしのチャリを借り、石舞台古墳〜橘寺〜キトラ古墳など、アップダウンの激しい道を、鼻歌まじりで、キコキコ。
夕方近く、最後に訪れたのは、飛鳥寺。ここは蘇我馬子が、世界遺産の法隆寺よりも前に創建した、日本最古の仏教寺院である。
元々は壮大な伽藍(がらん)だったそうだが、2度の落雷によって焼失。今は、江戸時代に再建された小さなお堂しか残っていない。
そのお堂には「飛鳥大仏」が座しているのだが、この仏さまは、創建時から動かされたことがないという。
寺を焼失し、身体を焦がしながらも、1400年以上、同じ場所で、人々の幸せを祈り続けてきたのか〜。
さて、お堂に入ると、シャッター音が響いている。観光地のお寺では珍しい気がして「写真、いいんですか?」と、横にいる作務衣の方に尋ねると、「よろしいですよ。でも参拝を先になさっては?」という返事。
あわててスマホを後ろ手に隠し、「そ、そうですよね」と、答えるわたし。
それがわたしだけかと思ったら、次に聞いた男性も同じ言葉を返されて、はっ! と何かに気づいたように「そ、そうですよね」。
耳をそばだてていると、お堂の入り口で同じ会話が6度繰り返された。何と続けて6回も!
わたしも含めて、本当は皆分かっているのだ。あらゆる観光スポットで、写真を撮ることだけにうつつを抜かしている、自分たちの迂闊(うかつ)さと、滑稽さを。
カメラやスマホは心の目を超えることはできない。
そう、その通りなのである。だが、悲しいかな。わかっちゃいるけど、やめられない。
=2018年4月27日掲載=