「尊敬する人は?」と聞かれるといつも頭を抱えてしまう。数分の間、「うーん」とうなっていると、抱えた頭の端から星飛雄馬やオスカル・フランソワ、そして赤毛のアンらの顔が浮かび上がってくる。
そう。漫画やアニメ大好き世代にとって、政治や実業界の偉人よりもアニメの主人公こそがヒーローであり、尊敬の対象なのだ。
そんな心のヒーローたちが、最近、持ち場を離れて荒稼ぎをしている。
たとえば、東京メトロに乗ると、メトロポイント(メトポ)の中吊り広告に子どもの飛雄馬と姉の明子がご出演中である。
場面は飛雄馬がムキムキムキとシャツをはだけて、悪ガキたちに「大リーグボール養成ギブス」を披露する有名なシーン。だが、そのギブスの名前は「メトポ登録ギブス」に変えられていて、横では明子が「飛雄馬、そういうことじゃない……」とつぶやいている。
これを見るたび、一瞬跳ねあがった気持ちが、一気にザンネンな気分になる。
ちなみに、別な東京メトロの広告には、あしたのジョーの矢吹丈も出演しているのだが、こちらは世代的に、どハマリした漫画ではないので、そこまで感情が浮き沈みすることはない。
同じように、家庭教師のテレビCMにはハイジ、ペーター、クララたちアルプスチームが総出演しているし、中学受験塾の中吊りには、ちびまる子ちゃんが大野くん、杉山くんといっしょに飛び跳ねている。
これらの人気キャラクターの再消費現象は、明らかに彼らのばく大な知名度を狙ったものである。だが、ファン目線で言えば、好きだったキャラクターに、過去の遺産を食い荒らされている感じ。
とはいえ、心のヒーローが世の中からまったく忘れ去られ、消えてしまうのも、ちとさみしい。困った板ばさみなのである。
=2021年11月12日掲載=