朝のランニングを始めて、10カ月になる。
先日、タクシーでその話をすると、「ややっ!お客さんも?」と、運転手さんが乗って来た。この流れは、「実はわたしも、長年の皇居ランナーでしてね」なんて感じに続くのかな?
ワクワクしながら待っていると、「とうとう禁煙に成功しましてね。ベイプ、あれは大発明ですよ」と嬉しそう。ベイプ? ああ、流行りの電子タバコね。
なるほど、そうか。いい年をした女が「最近、走り始めて」などといったら、「お互い、健康が心配ですねぇ…」と、なるのか。少しがっかりした自分に気がついて、思わず笑ってしまった。
ダイエット?運動不足解消? わたしのランニングも、きっかけはそれだった。だが今は、きっかけなんて、どうでもいい。レースに出たこともないのに僭越だが、このところ、自分はランナーだという強い自覚というか、根拠なき自信が、みなぎっているのである。
毎朝、6時にアラームが鳴ると、顔を洗い、日焼け止めを塗って、シューズを履き、腰に巻いたランニング・ベルトにスマホを滑りこませて、路上に出る。
2分ほど歩くと40段の石段がある。そこを登ると、木々に囲まれた小道に行き当たる。実はその小道は、近くの高校の通学路だ。運動部員が坂道ダッシュを始める前のわずかな静寂を縫って、近隣の住民が使わせてもらっている形である。
冬は銀杏のじゅうたんの上を、春先の2~3日は、桜吹雪の中を、走った。
夏になって、桜と反対側の木立に彩りを広げたのは、ピンクと白のサルスベリ。蝉時雨とコラボしながら開花したが、今になっても咲いている。
驚くほど息の長い花だったが、さすがに今週になって秋を感じたのか、一房ずつ路上に散り始めた。
花びらに足を取られた自称ランナー(わたし)が、サルでもないのに、スベって転びかけたのは、ご愛敬である。
=2017年9月8日掲載=