銀座8丁目にある「アニマ ヘアークラブ」店長の桑原文雄さんとは駆け出しの頃からの付き合いになる。
初めて仕事を振られた海外ロケの直前、ボサボサ頭を何とかしようと飛び込んだ有名店で偶然、担当してくれた。
世代も同じ。その後、勤務先を辞めて独立・一本立ちした時期も、ほぼ同じ。
大手の系列店にはならないぞ。売り込みはせず、一つ一つの仕事に魂を込めよう。カットしながら、されながら、そんな青臭い思いを20年来語り合ってきた。
職種はまるで違うが「戦友」のような存在なのだ。
昨年の春、その彼から、来年は定休日以外に、木曜日もお休みするつもりだと打ち明けられた。
え!ワーカーホリックと言えるほど仕事が好きで、定休日さえ申し訳なさそうに休んでいた桑原さんがなぜ?と、わたしは驚いた。
だが、目的は、ボランティアだった。川崎に新しく出来る特別養護老人ホームに毎週通う計画だと言う。
きっかけは2011年。「旧赤坂プリンス」に福島から避難していた人たちのカットをしたこと。
最初、矢も盾もたまらずホテルに連絡すると、こちらには洗髪できる場所がないからと、断られた。でも役に立ちたくて、お店まで来てくれれば無料でカットしますからと、粘った。
慣れない地下鉄に乗って、赤坂から銀座まで来てくれた方一人一人に、お店のお客さまと同じクオリティのカットを仕上げた。落ち込んでいたけれど、髪が素敵になって元気が出たと、喜ばれた…。
その時、泣くほど嬉しかったんだと、桑原さん。
施設では、女優さんみたいな頭になった!と、評判がいいらしい。僕のカットは、ただの介護カットじゃないから!と、胸を張る。
元高校球児のハートは、いまも限りなく熱い。
=2013年12月17日掲載=