呪(のろ)いという恐ろしい言葉を知ったのは、2、3歳の頃。ディズニー絵本『眠れる森の美女』だった。
王女誕生の祝宴に1人だけ招かれなかった魔女(マレフィセント)が怒り心頭。王女が15歳になったら、糸巻き車の針を指に刺して死ぬ呪いをかける。呪いとは、不幸の予約である。だから、簡単な報復より、ずっとずっと肝が縮む。
再来年、日本でも上演が決まっているハリー・ポッターの新作劇のタイトルも「ハリー・ポッターと呪いの子」である。舞台は最後の戦いの19年後。ハリーの子供たちに、またまた過去の因縁が絡んでくる気配である。
このように、呪いは今までは魔法使いの特権で、おどろおどろしいものだった。それを今、多くの人間がポップにかけ合っているのを、皆さんはお気づきか。
あいかわらず世の中は、パワハラ、セクハラ、ワンオペ育児、新型コロナ、オレオレ詐欺など、ストレスにまみれている。そのためツイッターには日々様々な愚痴が吐き出されている。
先日も、遠距離恋愛中の彼氏が浮気したというつぶやきがあった。すると、通りすがりの人がこんなリプ(返信)を送った。「気持ちわかります。彼氏さんには、足の小指をドアの角にぶつけつづける呪いをかけておきました。元気出してね!」
注意して見ていると、似たような文脈で、多彩な呪いがかけられている。
クスッと笑ってしまったのは、舌が当たる痛い場所に口内炎ができつづける呪い、毎晩お風呂上がりに裸足で画鋲を踏む呪い、笑うたびにチラッと鼻毛が出る呪い、駅の自動改札機が必ずエラーになる呪い……。皆がだれかのために、小さな呪いをかけてあげている。
プチ呪いは、かけてもらった人も立ち直り、かけた者も救われるであろう。人間はついに、魔法使いの領域にまで、その足を踏み入れたのじゃ。
=2020年11月27日掲載=