緊急事態宣言が出てから、いつもの生活が一変し、ひたすら家にこもる毎日。
ため息をつきながら、「あの仕事を進めるしかないか……」と腹をくくった。
昨年、とある大学の創立百年史という今まで経験したことのない仕事を、勢いで引き受けてしまっていた。
最初はテーマコピーだけ担当するはずだった。だが予算不足でライターが見つからず、慣れないわたしが本文まで書くことに……。
完成予定は2年後。お尻はまだ先と、少しだけ手をつけて先延ばしにしていた仕事を進めるなら、ステイホームの今かもしれない。
そこで、樹液にへばりつくカブトムシよろしく、朝から晩まで、机にしがみつくことにした。しかし、コピーライターのわたしから見ると、常軌を逸している。何がって、文字数が。
広告でも年史でも、字を書くのは同じだろうと、皆さんは思うかもしれないが、実は中身はまったく違う。
「キャッチコピーは、13文字以内」というのがコピーライターの合言葉である。
できるだけ短い言葉で言い切っちゃうのが仕事。だから、文章が長くなると、とたんにゼィゼィ息切れしてしまう。
そんな短距離ランナーが、100年分の物語を1文字1文字、合計30万字の言葉を刻みながら、長距離走の見えないゴールを目指すわけである。
最初は、旧字&旧仮名遣いの資料の山に、途方にくれた。関東大震災で学舎が崩れ落ちるくだりを綴った関係者の回想録を読むだけで、丸2日を費やした。
だが、次第にペースをつかんで作業は加速。戦中・戦後の苦難の中でも折れないハート。今週とうとう、東日本大震災直後のいわき市でボランティアをする学生が書いた、涙腺崩壊の手記までたどりついた。
そこには、今より明るい世の中にしようと願う、この国の人たちの息づかいがあった。同じ思いが、コロナ後の未来にも、きっとつづいていくのだろう。
いつかは終わる、ステイホーム。何とかなるさ、ホームワーク。
=2020年5月8日掲載=