じぶんのよく知っている場所がニュースに出たりすると、気持ちがソワソワし始める。そこ、わたしの縄張りじゃん?と思うせいだろう。
先週のわたしがまさにそれ。午前中、原宿で仕事を一つ片付けると、人混みの表参道を駆け上がるような勢いで、お目当ての場所へ一目散。昨年末に児童書の老舗「クレヨンハウス」が閉店したあとの路地に入っていった。
目標物はすぐ見つかった。5〜6人の男女が、一本の電柱の周りに集まって、スマホを掲げたり、興奮の吐息をもらしたりしていたからである。そう。そこが数日前からTVのニュースが速報していた「渋谷区の住宅街で、世界的に有名なストリートアーティスト、バンクシーの絵が発見されました」っていう噂の震源地。
近づくと、集まっている人たちは、みな饒舌だった。
「この電柱一本で一億円とかするのかなぁ〜」と、思わず皮算用を呟いてしまう男性あり。「この間まで、クレヨンハウスの看板が上から掛かってたから、誰も気づかなかったのよね」と、裏事情を語る女性あり。皆が不思議な連帯感を持って「ほぉ〜」とか「そうなんですね〜」などと、他人の話に相槌を打っている。
しばらくすると、制服姿のタクシーの運転手さんが見物人の仲間に入ってきた。「ちぇ、気づかなかった。いつも通る道なのになあ〜」とボヤきながら太い腕を組んでネズミの絵を見上げたので、皆がクスクス笑った。
数分後、その運転手さんが道端に停めた車に戻って行くと、「お待たせしてすみません〜」と謝る大きな声と、「どうでした〜」と、明るく尋ねる男の人の声が聞こえてきた。
お客さんを待たせてたのか〜い?
人々がなぜか陽気な、表参道の細い路地。落書き一つでこの大騒ぎである。さすが、世界のバンクシー!
=2023年1月27日掲載=