誰しも、3度の飯より好きなものがある。私の場合は「語呂合わせ」である。
例えば、運転しながら、前を行く車のナンバーに、ひと思案。頼まれてもいないのに「2525」を「ニコニコ」と読み替えて、ひとり、悦に入るのである。
我ながら惚れ惚れするような「語呂合わせ」の傑作もあるのだが、電話や銀行口座など、個人情報に関わる数字なので、ここで皆さんにご紹介できないのが残念である。
さて、そんな「語呂合わせ」マニアのわたしが、駅のホームで「2万年の時を越え、洞窟壁画が東京に出現!」と書かれた電飾看板に遭遇。下段には「クロマニョン人が残した」とある。
これは異なこと!「ごまんといたか?クロマニョン」は、学生時代に暗唱させられた年号語呂合わせの中でも、イロハのイではないか。「5万年」ではなくて「2万年」なのは、なぜだろう?そんな些細なことが気になって、会期終了間際の「ラスコー展」に駆け込んだ。
くだんの疑問は最初の展示室で即、解決。クロマニョン人が出現したのは約5万年前で、ラスコーの壁画が描かれたのは2万年前。クロマニョン人の歴史は思いの他、長いのであった。
壁画の展示はといえば、今では本国フランスでも閉鎖されている洞窟を再現した精巧なもので、線刻された動物の形をブラックライトで浮かび上がらせるなどの工夫があった。
昼なお暗い洞窟の奥でクロマニョン人は、ランプで壁面を照らして絵を描いたという。シカ、ウマ、バイソン、サイ…。
なぜ彼らはそんな秘めやかな場所を選んだのか……?光なくして見えないアートは、現代の映画館のような効果をあげたのかも……?などと想像が膨らんだ。
帰り道、ハンドルを握ったわたしは、こんな日は「9604(ク・ロ・マニ・ョン)」ナンバーの車と出くわしたりして~などと夢想しながら、左右を走る車のお尻を、キョロキョロと横目で追い掛けた。
=2017年2月21日掲載=