わたしの通った中学校が福島競馬場の隣だったという話をすると、目を輝かせる人が、必ずいる。
世の中に、競馬ファンは予想以上に多いのである。
加藤茶の母校としても知られる福島二中。この学校に、中学2年の春、転校して来たわたしは、学校の備品の潤沢さに目がくらんだ。
音楽室の棚には、輝く管楽器が並んでいたし、野球部は、初めて見る金色のバットで素振りをしていた。
これらの品々は、競馬場から学校へ贈られた、お詫びの印だという噂だった。
実際、風向きによって、体育館には厩舎から流れ込む、特有の香りが浮遊。レースの翌朝の校庭には、ハズレ馬券が花吹雪。通学路には、どこかの誰かの置き土産の酒瓶が鎮座…。
そんなカオスな思い出話を、競馬ファンはなぜか、面白がって聞くのだった。
このような絶好の環境で育ったのに、ギャンブラーにならなかったのは、もったいない。お経を読めない門前の小僧なのである。
先週、高校のプチ同級会があって、ほぼ20年ぶりに福島市を訪れた。
2時間ほど時間があったので、駅前のレンタサイクルで、懐かしい中学へ!
気がつくと、学校裏の小道にいた。ここに、二中生だけが知る、バラ線が微妙に裂けた、場内へ通じる秘密の入り口があったはず…。
自転車を降り、ウロウロしたが、新しい堅固な塀がそびえ立つばかり。
仕方なく、石壁の細い継ぎ目を見つけて、顔を押しつける。と、ピカピカ光る緑の芝の海が見えた。
瞬時、涼しい風が頬をなでた。あの14才の風が。
=2013年8月6日掲載=