昨日、仕事帰りに地下鉄に乗っていると、左隣の空席に、制服姿の少年が腰掛けてきた。ふと見ると、彼の右手の挙動がおかしい。
ん?と、横目で確認すると、見るも器用に指先を動かし、二本の輪ゴムをくるくると回している。顔は左手のスマホを向いて、右手の指だけが、まるで精巧な機械仕掛けのようだ。
もしちょっとでも手元が狂えば、輪ゴムは凶器と化して、こちらの鼻を直撃するだろう。心配になったわたしは、激しい横目でじと〜っと、監視体制に入る。
もしや、輪ゴム回しの世界大会でもあるわけ?などと考えている内に、あぁ、あれと一緒か!と膝を叩くわたし。
実は先日「ハンドスピナー」というおもちゃを通販サイトで購入していたのである。「回していると気持ちが落ち着きます」と書いた友人のSNS投稿を目にしたのがきっかけだった。
元々はアメリカで自閉症の子どもの治療に使われていたが、ストレス解消効果が伝わって、全米で爆発的に流行しているのだとか。
だが、届いた現物はというと、真ん中の丸を指ではさんで、三角形に並んだ重りをくるくる回すだけ。
わたしはその退屈さに、すぐに飽きて放置してしまったのだが、指先への神経集中加減は、隣の輪ゴム少年とよく似ている!
どうやら少年も、スマホを見るようなふりをして、指先に意識を集めているような気配である。
その時、35年前に大ヒットした映画「ET」のポスターがふと浮かんだ。それは、人と宇宙人(ET)が指先と指先を触れ合わせて魂を交信する名シーン。
もしかしたら、人間の神経の集積地である指先は、異星や異次元への扉となるほど、スピリチュアルな器官なのかもしれない…。
帰宅したわたしは、改めて指先に全神経を集中させながら、「ハンドスピナー」を、くるくる、くるくる、くるくる、回したのだった。
=2017年7月28日掲載=