食卓から「旬」が消えたと言われて久しい。
土用のうなぎやクリスマスなどの商戦は別にして、今、季節を感じさせる最後の食材といえば、いちご、桃、スイカ、梨、柿、などのフルーツたちだろう。
しばし、なりを潜めていた彼らは「旬」が来ると号砲が鳴ったみたいに、青果コーナーにお出ましになる。
大のスイカ好きを自認するわたしも、店頭にスイカが並ぶと、そわそわ、ウキウキ。途端に心が上ずってしまう。
夏の初めは、熊本産。その後、気温と比例して、千葉のスイカの割合が増えていき、同じ値段で、カットの大きさが、8分の1から6分の1に!
真夏に短く長野産をはさんで、トリを務めるのは、山形県尾花沢のスイカたち。わたしは毎日、スイカが主食。
そんなスイカざんまいだったこの夏、最も溺れたスイカといえば、6月末の富里スイカロードレースで食べたスイカだっただろう。
今年は5kmランが廃止され、10kmランにエントリー。なだらかな北総台地の田畑を駆け抜けて、飛び込んだのは「給水所」ならぬ「給スイカ所」。カラカラに乾いた喉にしみる恵みの汁。ゴールした後も、15切れくらいいただいて、多幸感マックス。忘れられない一日になった。
ところがである。今週の日曜日、最高気温が25度を割り込んだ日。突然、そんな甘い生活に異変が起きた。冷蔵庫のスイカに、何も感じなくなったのだ。むしゃぶりつきたいどころか、ちょっと重荷。心変わりもはなはだしい。
変な例えだが、これではまるで、発情期を過ぎた途端、メスに見向きもしなくなったオス鹿ではないか。
その時気づいた。「旬」とは、大自然が用意した、人と果物の間の、ひと時のハグだということを。
現金なようだが、次のターゲットはもう決まっている。
秋はやっぱり、福島産の梨でしょ。梨!
=2019年10月11日掲載=