「近道へ 出てうれし野の 躑躅(つつじ)かな」
と詠んだのは与謝蕪村だが、わたしが朝ランでよく通る水路のほとりにも、長いつつじの生け垣がある。だれのものかはわからない。
毎年4月の末になると、一斉に濃いピンクの花が開き、わたしのようなランナーや、犬の散歩をする人の目を楽しませてくれる。
だが、問題は、その先なのである。
残念ながら、つつじって、散り際が美しくないのだ。桜の花が、パ〜ッと風で散らされて後腐れがないのに比べて、つつじの花は盛りが過ぎてからも、でろでろ〜っと未練がましく葉っぱにまとわりつく。
しおれた筒状の花びらは、いつまでも地面に落ちずに、長いおしべやめしべをフックにして、垂れ下がる。
そこにクモが登場。花びらと葉っぱをまとめて、幾重にも固い糸をかけていく。
そのうちに、小さなアリが、クモの巣の中にある花びらの上に集まってくる。とてもそんな風には見えないのだが、乾いた花びらのどこかに甘い蜜の香りが残っているのだろうか?
夏になると、花びらは濃い茶色に変色。生け垣全体が、ひからびた羽根をはやしたオブジェみたいになっていく。
つつじの木がよみがえるのは、台風が来てからである。高圧洗浄機のような雨に打たれて、花びらとクモの巣は洗い流され、薄緑色の葉っぱが秋の日差しにキラキラときらめく。
そして、静かに冬を越し、春を迎えて、また、新しいつぼみを付けるのだ。
そんなつつじの未練たっぷりの散り際が、妙に人間臭く思えるのは、わたしだけ?
=2022年5月13日掲載=