休日のランニングは、いつも消防署の前を通る。
フル装備の消防士さんがタイヤを腰ロープで引いてダッシュしたり、ちぎれるほど腹筋したり。どの顔も火が付きそうなほど真っ赤っ赤。訓練が必要な仕事なんだなぁ〜と頭が下がる。
その点、コピーライターは楽だ。むろん、駆け出しの頃は、大先輩の糸井さんや仲畑さんらのコピーをノートに写経したりした。だが大切なのは普通に暮らすこと。特別な訓練は必要なく「生活者」の視点だけ持つようにと、教えられた。
だが時々、肉体を脳みそに連結させたくなる。わたしは、その秘密特訓を「千本ノック」と呼んでいる。
さて先日、外資系フレグランスの仕事が舞い込んできた。得意先の注文は変わっていて、理屈は不要!ただただ女性のハートにグッとくるコピーを!というもの。こういうオーダーは、案外珍しい。だが、こんな時こそ例の「千本ノック」の出番よねと、内心、色めき立って話を聞いた。
コピーの締め切り前日の夕方、わたしが出かけたのは、一人カラオケである。
ドリンクが来るまではスマホを見ているみたいなふりをするが、一人になったとたん、手当たり次第に曲を入力。
あとは二時間ほど、字幕の言葉にだけ忠実に、メロディーはめちゃくちゃに、歌いまくるのである。
野球界でも、指導者の自己満足だと敬遠されつつある千本ノック。だが、四方八方にバウンドするボールの気持ちをつかむ効果は、あるのではなかろうか。
こちらの千本ノックも同じこと。大量の言葉を思いっ切り口に出して、身体的にふらふらになった後、心にひらめくコピーには、おのずと言葉が本来持っている自然な力が宿るはず…。
それこそ、自己満足な思い込みかもしれないのだが。
=2014年5月6日掲載=