東京メトロの明治神宮前駅。エスカレーターに乗ろうとした瞬間、2連のポスターが視界を通り過ぎた。
ロゴはPARCOで、写真もステキ。だが、「Last Dance(ラスト・ダンス)」という英文のコピーが、何だか腑(ふ)に落ちない。
今までたくさんのダンスを踊ってきた女性のみなさん、そろそろ最後のダンスを踊る時間になりましたよ、ってか?
とっさに、年齢をからかわれているような気がして、あら、失礼ね!と、被害妄想の針が震える。そのままエスカレーターでホームまで運ばれたが、やはり、どこかがおかしい。あの広告上手なパルコが、女性の気持ちを逆なでするようなポスターを作るだろうか…?
そこで、もう1度エスカレーターを下って、今度は、ギリギリまで壁に接近して、ポスターの隅々まで見る。と、右下に「渋谷パルコ8.7SUN一度さよなら。」という小さなコピーを見つけた。
あぁ、また早とちりか。
これは、渋谷パルコが、立て替えのため一時休業するというポスターだ。着々と進んでいた渋谷再開発の波が、ついに公園通りにまで及んだのだった。
パルコといえば、最上階の劇場が特長。わたしにも、小さな思い出がある。
80年代の頭に、『下谷万年町物語』という演目があった。唐十郎主演、蜷川幸雄演出による、サイケで熱量のある舞台だったが、友人とわたしは、終演後、「よかったけど、主役の青年が、下手だったね!オーディションで選ばれたらしいけど、彼は、見込みなしだろうね!」などと、辛口のボヤキ節をまき散らしながら、公園通りを駆け下りたのだった。
それが、今まさに「王様と私」でブロードウェイの主役を張っている、俳優、渡辺謙の初舞台であった。
こちらに見る眼がないのか?はたまた、世界のケン・ワタナベが未熟だったのか?
おそらく、前者だろう。これまた、早とちりの一種だったに違いない。
残念ながら、生来のおっちょこちょいに、再開発の薬はないのである。
=2016年5月3日掲載=