9月1日と2日は、クルマ移動の多い2日間だった。FMを聞いていたら、いろんなチャンネルから、繰り返し同じメロディーが流れてきた。フジファブリックというバンドの曲「若者のすべて」だ。
男性ボーカルが、その夏最後になる花火大会の切なさを歌う。15年以上前の曲だし、今では音楽の教科書にまで載っているらしいので、誰もがどこかで耳にしているのではないだろうか。タイトルが「花火」でも「夏の終わり」でもないところが意味深だ。
題名を聞いて、ルキノ・ヴィスコンティ監督の古い映画を思い出した方もいるかもしれない。映画のほうは季節とは関係なく、貧しいイタリア南部から都会に出てきた兄弟が厳しい現実に挫折し、傷つく物語。モノクロ時代の暗くわびしい抒情にあふれた作品である。
一方、カーラジオの曲には、薄いパステルカラーのリリカル風味があって、この季節に漂うポップな寂しさがにじみ出ている。
夏というのは、実は限りなく残酷な季節である。
宿題、お手伝い、自由研究、ラジオ体操、昆虫採集、プール、恋、告白、デート、旅行、スイカ割り、海水浴、花火大会、家族サービス……。若者から大人まで、みんなが予定表に書ききれないほどの計画を抱えて、灼熱の季節の中に飛び込む。
だが、はじめの計画どおり達成できる人なんて、まずいない。だれもが最後は決まって、期待はずれの空虚さに包まれる。まるで人生を濃縮したかのように。
だから、「若者のすべて」は確かに素敵なタイトルなのだが、言っていることは「人間のすべて」なんだと思う。
ともあれ、何度聞いても飽きのこない名曲。ラジオからこの曲が聞こえなくなったとき、今年の「夏の終わり」が終わるのだろう。
=2022年9月9日掲載=