先週、迷走する新国立競技場問題に展開があった。安倍首相が、今のデザインを白紙に戻し、ゼロベースで見直すとコメントしたのである。決定したものは変えられないという、しゃくし定規な雰囲気からの巻き返しは、何よりだった。
とは言え、相変わらず進む方向は、あやふや。どっちを目指したいのか、ビジョンを語る人の不在には、げんなり。ありやなしやの「国際的信用」などは別にしても、この1件で国への「国内的信用」がますます失墜した事は間違いない。
だがそんなメイン・スタジアムのモタモタの一方で2020年を見据えて、誰にも迷わせないぞ!という気迫を前面に、改良工事が進んでいる場所がある。
地下鉄・大手町駅の構内のあちこちに、突然、通路を遮断する壁が作られ、巨大な筆文字の矢印が出現したのは、昨春だったか。
この夏も、冷房の効かない構内はムレムレ、飲み物を買おうにも、ホームの売店は姿を消し、警備員は通路に仁王立ちで、1人1人に右側通行を促す…そんな非常事態は続いている。
だが、巨大な矢印のおかげで、工事現場の真ん中に放り出されたかのようなこの駅で、むき出しの天井を見上げて迷子になっているような人は見当たらない。
こっちだよ! とばかりに勢いのある筆文字で描かれた巨大な道しるべが、この駅を乗降する1日80万人を超える乗客をスムーズに誘導しているのである。
迷走するビッグイベントも、先の見えない原発事故の収束も、足りないのは、誰にでもわかりやすい、このような矢印の存在なのかもしれない。
大手町駅の工事の完成予定は、来年11月。この駅で迷う人は、これからも、そう多くはないだろう。
=2015年7月21日掲載=