「精神的支柱」と呼ばれる存在がいる。サッカー女子ワールドカップ。日本チームでいえば、ベテランの澤穂希選手がそれだろう。
1年ぶりの代表復帰。初戦でPKを決めた宮間の頭を、澤がポンポンッとたたいた瞬間、わたしたちはこの試合の勝利を確信した。
男子サッカーなら、言うまでもなく、カズ。「カズさんが、人一倍頑張っているのを見ると、何やってんだ、俺?って思うんです」と、若い選手が語るのを、何度か聞いた事がある。
彼らを見ていると、気持ち(精神)だけでは「精神的支柱」たりえない事に気がつく。彼らの「行動」こそが、何よりの励ましになっている。
わたしは同じ事を、キビタンにも感じた。そう、あの黄色くて丸い、福島県のご当地キャラの話である。
誕生はふくしま国体。千葉のチーバくんや埼玉のコバトンらと同じ、よくある国体由来の、ゆるい公認マスコット。だが、時代がキビタンをそっとしておいてはくれなかった。
震災の翌年には、難しい後転や側転に挑戦する頑張り動画を配信。だが、そんな努力のかいなく、埼玉県羽生で開催されたゆるキャラサミットのステージでは、登場するや、コロッと転倒してしまう。さらに、翌年のゆるキャラグランプリでは、愛らしい「あたまがふくしまちゃん」に、県キャラの最上位をゆずってしまう。
だが、キビタンは、くじけなかった。先日東京スカイツリーで開かれたイベントで、わたしはキビタンの見違えるような動きに目を見張った。広場を埋める観客の前で、上下斜めに跳ねる黄色が、キラッキラに弾けていた。
その瞬間、「つまずいたって気にしない。明日の朝はやってくる」…キビタン体操の歌詞が胸に染みた。
いつもそばにいてくれる。でも、人知れず進化しているキビタンは、まぎれもなく、ふくしまの「精神的支柱」の一人(一羽)だろう。
=2015年6月16日掲載=