外出自粛生活がはじまった頃から、時々でかける都心で、なぜだか飛行機をよく見上げるようになった。
都心に集まる人の数が減り、街が静かになったおかげで、ジェット音に気づきやすくなったのかなと、のん気に考えていたが、どうやらそれは間違いだった。
なんでも、昨年の3月から、羽田空港の飛行ルートが変わったのだという。
離着陸機の受け入れ強化をめざして、南風が吹く日の15時から19時の間は、品川区や渋谷区などの都心の低空を飛行する新ルートが運用されるようになったのだという。
さて今週、南風が吹いた日のちょうどその時間、打ち合わせを終えたわたしは、目黒通りを歩いていた。すると、ビルのむこうからジェット音が近づいてきた。最初は虫の羽音のように、次第に街一帯をおおう轟(ごう)音となって。
立ち止まって音のするほうを見上げていると、少し遅れて、頭上にニュッと飛行機の胴体が現れた。普段見慣れない大きさだけに、ギョッとするような迫力があった。
それで思い出したのだが、わたしが育った須賀川の実家は、ちょうど国際線の飛行ルートの真下に当たっていた。ヨーロッパに向かう飛行機のお腹に向かって、縁側の広い窓からいつも笑顔で手をふった。かなり高い空だったから、音を不快に感じることもなかった。
それから半世紀以上がすぎて、建物がぐんぐん高くなり、空はどんどん狭くなった。都心に林立するタワーマンションの住人にとって、目と鼻の先を飛ぶ飛行体と騒音のストレスは、尋常ではないのかもしれない。
調べてみると、今では20以上の反対団体が発足し、住民は運用ルートの取り消しを求めて東京地裁に提訴しているという。
飛行機だけでなく、今後はドローンも増えていく。都心の空は、一体、誰のものなのだろう。
=2021年6月11日掲載=