別に知らなくても困らなかったけれど、知ってびっくり!
皆さんにはそんな言葉がありませんか。
わたしが白目をむいたのは、エリザベス。
数年前、友人の家に遊びに行くと猫がいた。右の前足に怪我をして、傷口を舐めないように首に保護具を巻いている。外で負傷して帰ってきたという。友人が何度も、エリザベスという言葉を口にするので、「エリザベス? この子の名前、タローじゃなかった?」とポカンとしていると、保護具の名前がエリザベスなのだそうだ。
エリザベス、正確にはエリザベスカラー。エリザベス1世のヒダヒダ襟に似ていることから付けられた名前で、米国の発明家が特許を取っているらしい。
その発明家がどんな人かは知らないが、センスの光る優雅な名前を、よくもまあ、ペット用品につけてくれたものである。「エリマキトカゲ」じゃなくて、本当によかった。
何だか愉快で、それ以来わたしは首に巻くものすべてを、ひそかにエリザベスと呼ぶようになった。真冬に使うネックウォーマーのことも「もこもこエリザベス!」なんて(勝手に)名付けて悦にいっていた。
だが、そんなおもしろ呼び名には、落とし穴が待っていた。
先日、自宅に来客があった。ふと、先ほど自分で飾ったばかりの花瓶を見ると、買ってきた時のセロファンがガーベラの花に付いたまま! 外すつもりで忘れてたのだ。
マズイ。明らかにこれはビンボー臭い。
焦ったわたしは「あらすみません、エリザベスが付いたままで」と、慌てて花の首からセロファンをむしり取った。
「エリザベス? お花? ガーベラのこと? え? もしかしたらそのフィルムがエリザベス? どうゆうこと?」と、なぜかスッポンのように、この失言に食らいついてくるお客人。
一度口からこぼれ落ちた自己流呼び名は、もはや回収不可能で、わたしはとぼけて笑うだけ。
助けて、エリザベス!
=2024年1月12日掲載=