昨年の秋、わたしのランニングコースでもある近所の高校の門に、A3サイズの張り紙が出された。
小鳥の全身と顔の写真が並び、事務室で迷いセキセイインコを預かっていること、電話番号と対応可能な時間帯が書かれている。
張り紙は透明ホルダーでコーティングされ、四隅の穴に、鳥の羽とカラーコーディネートしたかのような緑色の針金が通されて、フェンスに巻き付いている。
余計なことを書きすぎない、不足のない情報。丁寧な細工。もし「迷子の小鳥探し・張り紙選手権」があったら、きっと優勝だ。
同じ張り紙が通学路や近所の人が通うスーパーの掲示板にも出ていたから、近隣の人ならきっと気づくはず。だが、進展はない。
さて、秋から冬にかけての高校は、来校者の多い季節である。入学志望者や保護者のへ説明会、文化祭、対外試合、推薦入試…。おそらく、想像以上に多数の人がこの張り紙を目にし、「何かいい感じ」を持ったのではないかと思う。
狙ったわけではないだろうが、巧まずして伝わってくる、心づかい、動物愛、丁寧なコミュニケーション、色彩感覚…。見た人の心には「何かいい学校だな!」という印象が残る。
さて、わたしたち広告屋さんがいつも目指しているのは究極のところ、見る人に最終的にこのような「いい感じ」を持ってもらうことなのだ。だが、それをわかってくれるお得意先は多くない。なぜか皆さん、ど頭から声高に「この商品いいよ!」と言いたがる。「いい商品だな~」と、いつの間にか感じてもらう広告なんて多分、まどろっこしくて待ってられないのだろう。
セキセイインコの行動半径は 5km~10kmくらいだという。そろそろ、隣の街まで捜索の手を伸ばす時期? 高校事務室の次の一手はいかに?
町内中の人がやきもきしながら、迷いインコの去就を気にしている。
=2024年1月26日掲載=