



オリンピックは体に悪い。地球の裏側で起きるドラマをライブで観戦したがるわたしたちの宿命だ。
その中でも、パリとの時差は身にこたえる。「午前3時キックオフ」などという試合は応援心がかきたてられるが、必ず疲労マックスな翌日が待っている。
今週、眠気で閉じそうになる目を必死でこじ開けながら、九段下の駅を歩いていると、誰かに「待て!」と止められた気がした。そこで、ヨタヨタと通路を引き返すと、カラフルなデフリンピックのポスターの横に地味〜なポスターが1枚。立ち止まり、ポカンと口を開けるわたし。なんと、東京で開かれる世界陸上のポスターではないか。
「え、2025? うそ。来年? 待って。準備不足。ムリ……」などの感情が押し寄せてくる。寝耳に水のニュースである。
だいたい、次の開催地を知らなかったとはどういうことだろう。情けない。何しろわたしは「織田裕二の次くらい」を自称する世界陸上マニア。一ファンとして、1991年東京の全日程を観戦した体験が、今も心の奥で生きている。
なけなしのボーナスを全額大会事務局に持参し、震える手で全日券を受け取った。100メートル走のカール・ルイス、走り幅跳びのマイク・パウエル、十種競技のダン・オブライエン……。超人たちの限界技を目と心に焼き付けた。
翌年、会社を辞めて独立した。いつかまた来る東京大会に徒歩で通える場所がいいなと、国立競技場近くの千駄ヶ谷に事務所を借りたりして。なんとも慌てん坊な行動である。
なのに、34年の時を超えた今ごろ、駅貼りポスターに「待て!」と言われるなんて。よりによって、睡眠不足でヨレヨレになっているオリンピック期間中に……。何の準備もできていないのに……。まさか、その声の主はじぶん?
心の声はいつだって、前触れもなく、電撃の知らせを運んでくる。
=2024年8月9日掲載=

