昨年、全国の警察に届いた「落とし物」の数は約3000万点。過去最多だったらしい。現金の落とし物も228億円。こちらも史上最大だったという。
そんなニュースで、1989年に川崎市の竹やぶに落ちていた2億円のことを想起してしまった。落とし物というとなぜかバブルの狂乱を思い出してしまう。
ちなみに、最近の落とし物は、ワイヤレスイヤホンや携帯用扇風機などの小型家電や、エコバッグなどの流行り物が増えているという。
ところで、わたしは元々、落とし物に対して過大な自信を持っていた。
注意散漫で落とし物ばかりするので、JRや東京メトロの落とし物センターの電話番号は指が正確に覚えていた。落とした場所の勘も働いたから、説明もバッチリ。
その結果、なくしたバッグやメガネは、飯田橋にある警視庁遺失物センターでちゃっかり受領したし、山形新幹線に忘れた麦わら帽は、山形駅の駅員さんが梱包して送り返してくれた。さすがにキビシイ?と思われた熊本空港でのノートPCの忘れ物も、翌日しっかり自宅に届いた。
つまり、落とした物は必ず手元に戻ってくる~と、甘えて生きてきたのである。そこには届けてくれた人の善意が必ず存在したのに「さすが、ニッポン! また、戻ってきたよ~」と、浮かれてたってわけである。
だが、そんな落とし物安全神話は、2021年12月27日をもって、もろくも崩れ去った。
その日、わたしが郡山駅か東北新幹線の中で落としたお財布は、二度と戻って来なかった。過信から奈落の底へ……。銀行やカード会社への連絡でヘトヘトになっただけではなく、恥ずかしいような話だが、この時のショックから鬱を発症したことは秘密である。
過信は良くないが、それでもなお、諦めきれないのが、良心のループ。
ニッポンの落とし物神話を取り戻す戦いは、まだ始まったばかりである。
=2024年5月24日掲載=