先週水曜日は、バレンタインデー。わたしがノコノコ神保町を歩いていると、ヒールを鳴らしたビジネスウーマンがスーッと脇を追い抜いていった。
手にした三越のお買い物袋の中をひょいっと覗くと、10枚ほどの小袋と、チョコの箱がぎっしり。
そうか。この習慣、だいぶ下火になったけど、やっぱりしぶとく根付いているのね。「ガンバレ…」と、エールを送りながら「だけど、当日、慌てて三越に走るようじゃ、まだまだ青いわね!」と、思わず、心の中で先輩風を吹かす。
「わたしなんかの頃は、プランタン銀座の催事オープンの日に並んで、フランス直輸入のチョコを2、30個ゲットしたものよ」と、ついついドヤ顔。思い出はいつも美しいのである。
だが、よくよく振り返ってみると、広告会社に勤めていた頃のバレンタインデーは、疲れてボロ雑巾になる日でもあった。
翌日は何も飲まず何も食べず、ただ毛布にくるまって寝ていたい……。そう願うくらい、精神的にヘトヘトになる厄日だったのである。
だって「制作部門の女子は一人だけだから、ヨロシクね」的なプレッシャーを掛けられて、業務にシワを寄せながら走り回っているのに、「俺にはチョコより酒だろ」と文句を言う人、「クリエーターとして成功したいなら、こんなイベントに参加すべきじゃないな」と説教を垂れる人、「ホワイトデー狙い?」とニヤつきながら、結局何もくれない人……。男社会の業界はそんな先輩だらけ。クライアントも似たようなもの。
フリーランスになってからも、このイベントとのお付き合いは続いた。
しかも、その日で終わりではないのである。実は翌日の15日が、よりによってウチの夫の誕生日なのだ。一難去ってまた一難とはまさにこのこと。
もちろん、誕生日はうれしい。だが、この朝のどん底気分を一言で表すならこれ。「オーマイガ~ッ!」
=2024年2月23日掲載=