



昔の話。
母はわたしを22歳で産んだ。几帳面な性格だったから、子どもに風邪を引かせたくない一心だったのだろう。冬になるとわたしはいつも、雪ダルマのような厚着で、念を入れた洋服の着方をさせられていた。
その着方とは?
まずパンツを引き上げ、その上にシャツのすそを被せる。さらに毛糸のパンツを引き上げ、ラクダのシャツのすそを下ろす。そこにモモヒキを引き上げ、その上にセーターを下ろし、ようやくズボンを引っ張り上げて、最後に毛糸のベストをていねいに被せる。
かくして、わたしのおへその上でトップスとボトムスが次々に入れ替わり、何層にも重なったミルフィーユが完成した。
今よりずいぶん寒かった当時の福島でも、明らかに過剰防衛だ。
そんなわたしが幼稚園に入ったからって、トイレに行きたがるはずもない。楽しい遊具遊びを中断してトイレに行ったところで、煩わしいパンツの上げ下ろしが待っているのだから。
友だちは皆、重なったパンツ類を一気に下げて用を足し、重なったパンツ類を一気に上げて、トイレから駆け出していった。
個室の中で、お腹のミルフィーユ作りに、もたついているのは、わたし一人。早く遊びに戻りたいのに〜と、地団駄を踏むばかり。
だから、トイレはいつも後回し。お漏らしはしないが、いつもギリギリまで我慢。毎日がピンチの連続で、顔をしかめ、園庭にしゃがんで堪えることもしばしば……。
子どもだったわたしは母に反旗を翻す方法もわからず、その後も身についた着方を採用しつづけた。
でも、不思議。歳月が流れて年齢を重ねると、この面倒くさい着方が、そう悪くもない。むしろ、お腹はポカポカだ。
すずめ百までミルフィーユを忘れず。一周回ってホームラン?
=2025年1月24日掲載=

