先月、本コラムの原稿を送ってホッとしていると、担当のY記者から返信メールが届いた。
「文中に出て来る『アノラック』について相談です。私(44歳)ですが、聞いたことがなく、部長(54歳)に相談したところ、誰もが知っている言葉!と言います。そこで社内でいろいろな世代に聞くと、40代は半々の認知度、30代以下は聞いたことがない、という反応でした。原文のままにするか、「上着」などと書きかえるか、ご検討ください」とある。
ふーん、おもしろい!
わたしが書いた文章は「ある朝、郵便を出しに行くとポストが消えていた。仕方なく手に持っていた封筒を『アノラック』の胸ポケットに押し込んで朝ランに出た」ってな話である。
胸に大きなポケットが付いた上着だと伝えようとして、ふいに降りてきたのが「アノラック」という言葉だったのだが、言われてみれば確かに、ここ何十年も使った覚えがないワード。
「パーカー」にしようか「ウインドブレーカー」にしようか迷ったが、後者に変更してもらって無事掲載。
だが、何となく「アノラック」に気持ちが残って、タイムトラベル……。
小学生の頃、冬の間の登校服だったのは、派手な黄色のフード付きジャンパー。あいつはまごうことなく「アノラック」だった。
1978年に植村直己さんが犬ぞりで北極点に到達していた時に着ていたのも、フードに毛皮の付いた「アノラック」だ。
だが、87年の映画「私をスキーに連れてって」で原田知世さんが着ていたのはスキーウエアであって「アノラック」ではない。
うむむ。こんなこと言うのは不憫だが、ひょっとしたら「アノラック」が持っている、少し山男チックで、少しダサいイメージが疎まれて、いつしか使われなくなったのか?
時代の荒波の中で言葉の浮き沈みは、避けては通れない運命。とはいえ、ちょっと切ない。
アノラック、グッドラック!
=2024年3月8日掲載=