自宅から徒歩30秒の距離に、赤いポストがある。
デジタル化が進んだとはいえ、得意先から請求書の郵送を急かされることも多い。そんな時、目と鼻の先にあるポストは実に便利。
さて、わたしは今朝も封をしたスマートレターを片手に持って家を出た。朝ランの前にポストに立ち寄るのがルーティーンなのだ。
しかし、何かがおかしい。いつもならすぐ右目の端に入ってくる赤い塊が見えて来ない。狐につままれたような気分になって、来た道を行ったり来たり。ここはどこ? わたしは誰? ハラホロヒレハレ~。
数秒後。ポ、ポストが消えている……。
ぽっかり空いた空間と手元のスマートレターを見比べて立ち尽くしていたが、のろのろとウインドブレーカーの胸のポケットに押し込み、混乱しながらランを始める。先週は確かにあった。なのに、土日の間に夜逃げ的退場! なぜだ?
気づくと、ため息をついていた。ああ、またか~。
最近、このような出来事は珍しくない。当たり前だと思っていたサービスが突然中止になる。バス路線の廃線、銀行支店の統廃合、快速運転の終了などなど。
これって、20世紀に膨張しすぎた便利さへの自浄作用なのかも? 人が減って、サービスが縮む。寂しいけれど、こぢんまりと、無理をしない、そんな21世紀のニッポンを、わたしたちは生きていく!! 自分を説き伏せているうちに、気持ちが落ち着いてきた。
お昼近くに、配達の局員さんを見かけたので、ポストの件を聞いてみた。
集荷量が少なかったのかしら? それとも、何キロ以内に別のポストがあると撤去するルールになったとか? はたまた、郵便車の一時停止が危ないと判断されたとか? ……と、たたみかけると、「ぜんぶハズレです」と鼻で笑われた。
何でも、ポストの前のお宅から、撤去してほしいと要請があったのだという。「そ、そうなんだ」と、予想外の答えに、わたしもつられて少しだけ笑った。
=2024年2月9日掲載=